【帰国後インタビューvol. 8】妻の海外赴任「おめでとう!」迷わず決めた駐夫の道

海外生活だからと気負わずに いつも通りのマインドで過ごす

―帰国後のキャリアへの不安から「海外生活中に何かしないと!」と悩んでしまう駐在妻も多いので、Kさんのポジティブな捉え方がとても新鮮に感じます。

私は「海外で生活するから何かしなきゃもったいない」という感覚は持たない方がよいと思っています。海外生活で何かを身に着けようとするのは、相当な労力が伴います。常にいつも通りのマインドで日常を過ごして、その中で興味を持てるものに出会えたら、自分のできる範囲内で試してみるという感じが楽でよいと思います。…私がグータラ人間なので、詰め込みが嫌いなだけなんですけれども(笑)例えば復職後のための準備として何かをやり始めるのは疲れてしまうのではないかと思います。

―現地の日常生活の中でモヤモヤすることはありましたか?

モヤモヤ…うーん、あんまり感じたことがなかったような気がします。基本的に自由に過ごしていたので、ストレスはありませんでしたし、運動や食事にも不自由がなかったので。強いて言うのではあれば、現地で友達ができなかったことくらいですかね。基本的に人見知りなので、地域のコミュニティなどには参加できませんでした。でも、元々インドア派なのでそれもさほど苦痛にならず、人と1週間話さなくても平気に暮らせていました。私は特殊なケースかもしれませんが…。

―本帰国後、復職された時にご苦労などはありましたか?

復職した際は顔を見知った同僚がほとんどだったので、特に違和感なく入ることができました。ただ、やはり2年以上休職して社会から離れていたので、不安と焦りはかなりありました。同年代の同僚がバリバリ働いていた中、私は仕事をしていなかったので、当たり前だとは思いますが…。はじめの半年間は緊張の糸が張り詰めたような感じで仕事をしていたと思います。

私は以前に体調を崩して休職した経験があり、復職後のキツさはそれなりに知っていましたが、今回は2年間も休職した後だったので、「社会人として大丈夫だろうか?」といった不安の方が大きかったかもしれません。

ケースバイケースではありますが、「復帰」という言葉に囚われない方がいい気がします。自分が身構えてしまうと必然と周りも身構えてしまいます。以前と変わらない感じで出社して、普通に仕事をしていけば、周りもそれが当たり前の光景として受け入れてくれると思っています。

「仕事は続けたい、家族とは一緒にいたい」というシンプルな願い

―今後またご夫婦のどちらかに転居を伴う転勤があったらどうされますか?

最近の風潮として転勤はあまり主流ではなくなってきているかもしれませんが、可能性はゼロではないので、これからの課題ではあります。私はなるべく同行したいと考えていますが、国内の転勤では難しいかもしれません。それでも、配属先によっては、できれば一緒に異動し、仕事を続けていきたいという気持ちでいます。

子どもがいる・いないに関係なく、仕事は続けたいし、家族とは一緒にいたい。さらに、できれば今の会社を辞めることなく、最後まで同じ会社で働き続けたい。わがままかもしれませんが、それが希望です。

両親も高齢になってきており、今後は介護のことも考えなければならないので、それも踏まえると余計に難しくなってきますね。ただ、彼女がまた海外赴任することになったら、できる限りのサポートはしたいと考えています。今回の経験を通して改めて、家族は一緒にいるべきだと強く思います。

―「家族は一緒にいるべき」とのコメントに激しく同意しますが、転居を伴う転勤には夫が単身赴任となるケースが多い中、男性の意見としてはとても貴重であると感じます。

これに関しては少なからず私が育った家庭環境が影響しているかもしれません。うちは転勤族だったので、私は子どものころに何度か転勤を経験しています。母親は専業主婦で常に家族が一緒にいたので、それが当たり前だと思っています。

また、元々単身赴任を選択する人に対して「なぜ?」という気持ちを持っていました。月に2回自宅に帰れるとしても、月に2回しか家族に会えなくなるという選択をすることが理解できませんでした。「単身赴任になると独身気分を味わえる」とよく聞きますが、私にしてみれば、家族と一緒にいることを覚えてしまったら、一人でいる方が寂しく感じます。たまには自由な時間があってもいいとは思いますが…。私はあまり自分本位で物事を考えられないタイプなので、そういった性格にもよるのかもしれません。

―今後の人生観・キャリアプランなどについて教えてください。また海外での生活がそれらに影響した部分などがあれば教えてください。

子どもが欲しいと思っていたのですが、お互いの仕事の影響もあり、少し後回しになっていました。そんな中、お互いに不妊治療をしようという話になり、この度子どもを授かることができました。そのような影響が少しはあるかもしれませんが、自分としては定年までは仕事を続けたいという気持ちでいます。また仕事とは別に、今後の人生において、子どもがどのような好影響を与えてくれるか楽しみでいます。

海外での生活は今後のキャリアにはそれほど大きく影響しないと考えています。アメリカでの2年間、あくまでよい人生経験をさせてもらったという意識でいます。会社生活にも夫婦生活においても、よい影響しかなかったのではないでしょうか。特に家事全般をやってこなかった男性陣とは差がついたかと思います(笑)。

家族は一緒に過ごせるのが一番 夫婦のコミュニケーションを大切に

―最後に、ご自分の体験を振り返って、駐在妻・駐夫の方へのアドバイスやメッセージをお願いします。

今回の帯同休職で専業主夫を経験でき、とても貴重な期間となりました。のんびりと過ごすことで自分にとってのチャージ期間となり、リフレッシュできたと思います。新しい友達との交流がなかったのが今思えばもったいなかったという後悔も少しあります。でも、新しい環境での新しい生活はとても新鮮で、日本で普通に生活するだけでは得られない感覚でした。周りに左右されず一人でゆっくり過ごす時間はとても有意義で、それもまた貴重な体験だったと思います。

滞在中の生活では、パートナーの理解がどのくらい得られるかというのはとても重要なポイントだと感じました。些細なことでも誤解を生んでしまわないように、夫婦でこまめにコミュニケーションを取り、夫婦の会話の中で相手がどのように考えているかを汲み取ることが大切です。

最後になりますが、やはり家族は一緒に過ごせるのが一番だと今でも思います。特にこのコロナ禍では、家族は「密」でいることが許される唯一の関係でないでしょうか。こういう時だからこそ支え合える関係性を持つことが重要だと思います。


<インタビュー後記>

Kさんの自然体で日常を楽しむ姿勢は、まさに海外赴任への同行者が持つべき心構えだという感じがしました。一方、もっと他のコメントを引き出そうと、必死に食い下がって質問してしまった私。それは「キャリアを中断して同行することに、女性である私があれだけモヤモヤしたんだから、男性であればもっと激しい葛藤があったはず」といった勝手なステレオタイプによるものだったと思います。キャリアに対する考え方は人それぞれ、そこに個人差はあっても、男女差は必要ないはず。ジェンダーギャップを嘆いておきながら、自分が無意識に持っているジェンダーバイアスの存在に気づかされました。

それにしても、「仕事は続けたいし、家族とは一緒にいたい」というごくシンプルな願いを「わがまま」と感じざるをえない世の中は、やっぱりおかしい。もっと主体的にキャリアを構築できるような社会が実現していくことを願います。


いろいろな男性の生き方が社会に広く受け入れられるようになれば、女性ももっと生きやすくなるはず。配偶者の海外赴任や転勤で一方的にキャリアを中断されることで生じる様々な問題も、いつかは過去のものになるかもしれません。

私たちがもっと自分らしく、望んだキャリアを築いていけるように、これからも多様な家族のあり方を発信していきたいと思います。 自薦・他薦問わず、 海外駐在にまつわる多様な家族のあり方についての情報をお待ちしています。ぜひ情報提供フォームからお問い合わせください。

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