「駐在妻だって働きたい!」フルタイム正社員として日米デュアルライフに挑戦。その原動力とは? <後編>

後編では就職活動の具体的なプロセスや、駐在妻になって考えた「仕事と家族」への想いをお聞きしました。

駐在妻生活を続けながらの就職活動 ~譲れること、譲れないことを明確に~

ー日米デュアルライフを始めるきっかけとなる就職活動の流れを教えてください。

就職活動は、アメリカの企業を退職してから始めました。

当初は、就労許可証が更新されたらまた現地就労するつもりでいたので、アメリカでの仕事を探していました。しかし、私のように高い専門性を持たない外国人には、就労許可証がないと就職活動すらできませんでした。現地の就職エージェントにも「許可証を取得できたら連絡ください」と言われ、面接どころか書類も提出できず、行き詰まっていましたね。

そこで、アプローチの方法を変えてアメリカに住みながらリモートでできる仕事を探すことにしました。まずは日本の転職サイトに登録して、そこからリモートワークOKの企業を紹介してもらいました。でも、予想していたより上手くいきませんでした。職務内容の話は進んでも、時差と住民票の課題が想像以上に大きかったです。

ーそれでも、アメリカからのリモートワークOKで選考を進められた企業もあったのですね。

興味のあるポジションかつフルリモートワーク前提で、何度か面接をさせていただきました。

実は、内定後に破談になったケースがありました。要因は時差。直属の上司やチームからは「オンラインで一緒にやっていける!」と評価をいただいたものの、経営層から「日米の時差が大きすぎる」「労働条件の観点から認められない」とお断わりの連絡がありました。「日本と時差が小さいアジア圏や、たとえ時差が大きくても、個人作業できるような職務内容であれば可能性があった」と。でも、私は人とコミュニケーションを取りながら進める仕事を希望しており、そのためには日本の稼働時間(アメリカでは深夜帯)に勤務する必要が出てくるため、どうしても認められないとのことでした。

ITツールで距離は越えられても、時差はまだ難しい問題であることを思い知りました。

ー世界的にもリモートワークが広がったとはいえ、就労するには時差の課題はまだ大きいのですね。今回リモートワークを認めてもらえた企業はどのような選考だったのですか?

最終的に就職したポジションは、LinkedIn経由で連絡をくださったエージェントの方からの紹介でした。本社がアメリカにある外資企業で、書類審査と3回の面談を経て内定をいただきました。

ー時差の課題や、日米を往来するような働き方の交渉はスムーズに進んだのですか?

家族はアメリカを生活拠点とし続けること、私も「アメリカからのリモートワーク希望」ということを、人事面接の段階から明確にお伝えしました。お互いに貴重な時間を使って面接するので、条件の話は念入りに行いました。

そんな条件を持っていても必要とされる場所で働くと決めていたので、遠慮はしませんでした。駐在妻時代に重ねてきた努力や、働きたいという強い想いが伝わったのか、ディスカッションを繰り返す中で「フレキシブルな働き方を応援する」と受け入れてもらうことができ、その柔軟で先進的な姿勢にも感銘を受けて入社を決めました。

私は、アメリカ生活で身に着けたスキルの1つとして、「交渉力」を挙げます。日本で働いていた頃は、自分の意見を通すようなタイプではなく、まわりに気を遣って自分を抑えるような、いわゆる「良い子ちゃん」タイプでした。そんな私が、海外生活の中で自分の要望や条件を主張することの大切さを学び、面接段階から「デュアルライフをしたい!」と交渉できるようになりました。日本にいた頃の自分だったら「こんなこと言ったら確実に不合格でしょ」と決めつけて、絶対に言えなかったと思います。

とはいえ、前例のない働き方にチャレンジしているので、越えなければいけない壁はいくつも出現します。それでも、自分の中で譲れることと譲れないことが明確になっているので、大きく悩んだり落ち込んだりはしません。「ダメならやめて方向転換しよう!」と覚悟していると、新たな発想で問題を乗り越える毎日も楽しく思えます。

ー駐在妻でいながら国をまたぐ就職活動、振り返ってどうでしたか?

就職活動そのものから学ぶことが多く、自分を高めるよい機会になりました。例えば、就職先を探す過程では自己対話や忍耐力・柔軟性を、選考過程では交渉力や提案力を身につけられたと思います。

あとは、タイミングを逃さないことが大事だと感じました。

アメリカの企業を退職せざるをえなかったことや、時差の面で内定が破談になったことなど、環境や規制によってうまくいかなかったものは、悔しいですが自分ではどうしようもないことでした。自力では変えられないものに対して、どうやって向き合っていくかが大事だと痛感しました。

今の仕事も、コロナ禍だから実現できた働き方だと言えますし、私が「デュアルライフをしてでも働きたい」と思ったこの気持ちも、働けない期間が続いたからこそより強く感じたのかもしれない。そういう環境や気持ちも全てひっくるめて、タイミングが大事だと思いました。

ビーチの親子

働きたい思いと家庭との両立 ~家族の応援が後押しに~

ー今までずっと一緒にいたUさんが日米を行ったり来たりするような生活となると、家族にとっても大きな転機となりますね。反対はされませんでしたか?

家族には、複数の企業への採用に対する内定を承諾する期限が迫った時、勇気を出して話をしました。プチ旅行に連れ出して、海辺で長男に相談したのを思い出します。各企業で働いた場合の私の働き方、家族への影響、ベネフィットなどをそれぞれ書き出して相談しました。

長男は「ママがしたいことをしてくれるのが一番うれしいよ」と言ってくれました。夫も思いがけず「ワンオペ頑張るよ!」と祝ってくれました。結局、家族に支えられているのは私なんだなぁと思いました。

ーUさんが日本滞在時には、ご主人も駐在員という立場でいながらワンオペをするのですよね?そんな生活スタイルを引き受けてくれる男性はまだ少ないように思いますが、ご主人はどう思われていますか?

恥ずかしながら、夫の方が家事が得意です(笑)。仕事をしながら炊事に子どもたちの送り迎えにと、簡単ではありませんが華麗にこなしてくれています。不安だった子どもの学校や習いごとも、Slackを活用して引き継ぎをしたり、日本からオンラインでできることは極力私がするという協力体制で、今のところうまく回せています。また、夫がパパ友ママ友と連絡を取り合って子どもたちのお出かけを企画してくれるようになったのは、私がその場にいないからこそ実現していることなので、とてもうれしく思っています。

これが渡米直後だったら難しかったでしょうが、夫が仕事に慣れてきて、コロナ禍で在宅勤務中心ということもあり「今ならできる」と言って、頑張ってくれています。これも「タイミング」ですね。

離れて暮らす期間が発生する生活になりますが、それは家族にとって課題でもありチャンスでもあると思っています。私は、「家族としてチャレンジすること」を大事にしてきたので、このとってもユニークな暮らし方を通して、自分たちの成長や自信に繋げていきたいなと思っています。

余談ですが、夫に相談した時に「リスク分散としてその仕事頑張って」と言われて、気持ちが楽になりました。夫自身も今後のキャリアプランを模索中で……。「そうか、私が働くことは家計のリスク分散になるのか」と(笑)。

家族の記念写真

ーそれでも、やはり思い切った決断ですよね。簡単にできることではないと思います。

そうですね、簡単ではなかったです。でも、「ユニークか、チャレンジングか、ワクワクするか」を判断基準に、踏み出しました。きっと過去の自分なら……こんな決断はできなかったです。アメリカ生活を通して、選択肢を広く考えられるようになった自分自身の変化も感じられてうれしいです

尊敬するカマラ・ハリスさんの言葉に「See yourselves in a way that others may not(みんなが期待することではなく、自分の生き方を!応援しているよ!)」があります。この言葉にいつも勇気づけられています。

現地のママ友たちからも背中を押してもらいましたし、夫も周りのパパたちが平日の朝や夕方、休日に子ども関連のボランティアを楽しむ姿を見て勇気をもらったようです。アメリカ生活で家族の価値観が成長したのだと信じています。

「駐在妻なんだから」「女性って」「~が普通」「~べき」にとらわれるのではなく、自分で決めて進んでいきたいです。「駐在妻だから家族の近くにいるべき」というレッテルを自分で自分に貼るのではなく、「前例は関係ない」「自分が変える、周りが変わる」という気持ちでやっていきたいと思っています。今回の決断にも自信を持って進んでいきたいです。

ーこれから新しい仕事、働き方にチャレンジしようとしている駐在妻仲間に、ぜひアドバイスをお願いします!

私は、就職活動の中で、「表現力」と「交渉力」の重要性を痛感しました。

表現力とは、自分のやってきたこと・やりたいことをどのようにストーリーにするか、自分と相手がどのようにフィットするかを相手に伝えること。文脈の運び・言葉選び・表情も含めた表現が、私そのものなのだと思いました。

交渉力は、MBAでも学びましたし、アメリカでは多くの場面で日常的に鍛えることができました(笑)。今回の就職活動の過程でも、報酬だけではなく働き方を含む全てのディスカッションで交渉力が問われました。交渉は、自分だけでなく相手のためにも必要で、心地よいと思ってもらえる形で話し合えるといいですよね。

私は、表現力と交渉力の根底にあるのが「コミュニケーション力」、それを高めるには「チャレンジ」が必要だと考えています。「コミュニケーション力」は、言語や文化を超えて相手を理解しようとするだけでも伸びますし、海外だからこそ失敗を恐れずに日々「チャレンジ」できる環境を最大限利用したいですね。

海外生活こそ、この2つを磨くよい機会だと思います。まさに海外生活中の皆さんは、それだけでアドバンテージがあります。難しいことではなく、日常の中で相手や状況に合わせた言葉選びを意識するなど、継続した小さな積み重ねが、大きな違いを創っていくと思います。

アメリカの灯台

◆編集後期◆

終始穏やかながらも、明快な口調で語ってくださったUさん。経歴と経験、そして仕事に対する思いだけを切り取ると、同じ駐在妻でも、自分とは生きる次元が異なる人だとつい思ってしまいます。でも、それはほんの一面。Uさんは「自分の目指すものに向き合う実直さ」そして「実現する方法を考え動く力」が、ちょっと人よりすごいだけ。そう思ったら「こんな私でも、もう少し頑張れるかも」と勇気をもらうことができました。

2021年夏に仕事を始めて、2カ月に1度の割合で日米を行き来しているそう。デュアルライフの感想をお聞きしたら、真っ先に出たのはやはり家族のこと。
「家族の存在に、これほどまでに支えられていることが改めてわかりました。皆さんも慣れない海外生活でモヤモヤがあるかもしれませんが、それも家族の絆を深めている過程なのだと思って楽しみましょう!」とのこと。

ご自身や家族の目指すところに向かって頑張り続けているUさん、これからも応援しています!!

<後編終わり>

前編はこちら

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