【帰国後インタビュー vol.3 後編】駐在員夫婦の離婚の実態とその解決方法・・・ぶれずに自分のやりたいことに力をいれた帯同生活、そして、帰国後に選んだ道とはー

2017年に離婚の相談窓口である「離婚テラス」を立ちあげ、夫婦間の話し合いの仲介や離婚協議書の作成などを行っている小泉道子さん。10年以上培った家庭裁判所調査官としての経験と、台湾での帯同生活で力を入れてきたことが現在の仕事に生かされているといいます。小泉さんが帯同生活で得たこと、また今後の仕事やプライベートで目指したいことについて、前編、後編の2回に分けてご紹介します。


右:小泉道子さん
左:飯沼ミチエ

前編はこちらから

── 離婚テラスでは、具体的には、どういったことをされているのですか?

夫婦問題の総合窓口をイメージしてください。「離婚したい」とか、「突然離婚を切り出されて戸惑っている」など、夫婦関係に関する様々なお悩みが持ち込まれ、まずは、相談にのります。そこから、必要に応じて夫婦の仲介役として話合いの間に入ったりもします。そこから進んで離婚すると決めた夫婦には離婚協議書の作成、養育費の問題など離婚に関する一連のサービスをワンストップで提供するのです。日本では、離婚する夫婦の10分の1しか裁判所には来ません。残りは裁判所の力を借りずに、十分な話し合いや相談ができているかどうかは不明ながら、離婚届の紙だけは出して離婚している方たちです。

離婚後も安定して生活をしていくためには、「とにかく早く離婚したい」という、そんな気持ちを少し抑えて、将来のために約束事を文書に残すことが大切なのです。離婚テラスでは、夫婦間で争うことなく、離婚にあたっていろいろ決めないといけないことを穏便に解決して、離婚したいという夫婦のサポートをしています。

私は、家庭裁判所調査官として、これまで紛争性の高い案件やお子さんの福祉が問題となる案件を数多く担当してきました。そのため、将来の紛争を未然に防ぐための視点、お子さんの福祉を重視する視点で協議書や公正証書作成をサポートできるかなと思います。


目黒区、大田区、世田谷区、文京区では、区の施設に小泉さんが手がけるADR調停のパンフレットが置かれています。
参考:ADR(離婚協議サポート)について

── 離婚テラスでは「海外駐在員離婚サポート」というサービスを提供されていますが、これはどういうものですか?

そもそも家庭裁判所は、日本に住んでいない駐在員は利用できないことがあり、いざ離婚したいとなっても困難が付きまといます。私たちが手掛けているADRという方法は裁判外紛争解決手続きといって、本来は裁判所で行う離婚調停を、専門家仲裁のもと当事者が話し合いで解決するという方法です。この調停方法は、駐在夫婦の問題を解決するのにとても適しています。奥様が子どもを連れて日本に帰り、夫婦間の話し合いがストップしてしまうということがよくあります。物理的に距離が離れていることもあり、話し合う機会が失われがちな方たちでも専門家が間に入ることで、話し合いを進めることができます。

実は台湾からの帰国後、仕事に復帰して相談を受けていたら、夫が元駐在員でしたという方が多かったのです。駐在員夫婦は、まず物理的に離れている機会が多いこと、また夫婦ともにストレスがかかる生活、また特にアジア圏では駐在員の女性問題が起こりやすいなど、いろんな理由が重なって駐在員夫婦は問題を抱えていて離婚しやすいというのを実感していました。

台湾にいた頃は、海外にいることが原因で、夫婦関係に問題があるというママ友たちを実際に見てきました。日本にいるとき以上に子どものケアで孤立したり、鬱っぽくなったりというお母さんが何人かいましたし、夫婦のコミュニケーションが十分取れていなかったりしたのです。外から見ているだけではわからない駐妻の悩みがあり、決して楽しく明るいだけではない駐妻という存在を感じていました。奥様たちからは私の気持ちをわかってくれる方がいて嬉しいですと言ってもらったり、同じ経験をしてきた立場として安心感を与えられているのかなと思います。

また、私の事務所のホームページで、駐在夫婦と離婚についてブログを書いたところ、とても反響があり、ご相談を受けることも多くなったこともあって、サービスの一つとして提供するようになりました。

── ただ実際、離婚というデリケートな問題は、誰に相談したらいいのかわからない人も多いのではないでしょうか?

ただ話を聞いてほしいだけなら夫婦問題を扱うカウンセラーの方でもいいのかもしれませんが、物事の解決を図りたいならカウンセラーでは難しいと思います。法的なことが絡む場合は、なおのことそれを扱えるところに相談に行くのが大事です。

離婚の相談というと、みなさん弁護士さんを思い浮かべると思います。しかし、弁護士はあくまで「法律家」で、依頼者を勝たせるのが仕事です。そのため、ときに無用な対立構造を生み出してしまうことがあります。もちろん、それが必要な場面もありますが、一度は好き合って結婚した相手ですから、できれば穏やかに解決したいですよね。それができるのが元家裁調査官がてがける離婚テラスだと思っています。

私たちのところでは、モヤっとしたときに相談するのが一番いいとおすすめしています。物事は進めば進むほど選択肢が狭まるという性質があります。知識がないまま、まず離婚するぞと決めてしまったら、修復するという選択肢がなくなってしまいます。

何だか夫婦関係がうまくいかないなとか、離婚を迷っているという一番最初の段階で一度相談に来ていただいたら、離婚したらその後の生活はこうなるという離婚後のシミュレーションが可能になります。そこで、離婚後がそんなに大変になるならやめようと思うか、これならできそうと離婚するかを、取捨選択して選ぶことができるのです。

── ちなみに、駐在員に限って言えば、離婚の原因は何が多いですか? 

残念ながら、女性関係が多いですね……。子どもがいる場合、奥様は1か月単位で日本に戻ってしまうことがありますよね。特にアジアだと、男性の方も、みんなやってるよ、という感じでハードルが下がり、気が緩んでしまうようです。まれに奥様の不倫もあります。帯同する奥様方は学歴が高かったり、もともとキャリアを持っていたのに専業主婦になってしまって、力を持て余している人が多いのです。

次に精神的な不安定さがあると思います。「駐在後、夫が変わってしまいました」という言葉もよく聞きます。駐在するということ自体が大変で、駐在員ならではのストレスがありますよね。現地と本社との板挟みにあったり、日本にいた時よりポジションが高くなっているのに、それに対するフォローや環境が整っていなかったりと、駐在員はいろんなストレスを受けます。飲酒の機会も増えて、メンタルにストレスを抱えるのです。

さらには、夫からの乱暴な言動やDVなどに発展してしまう方もいて、夫婦仲が悪くなってしまうということもあります。

── そのような奥様にはどのようなアドバイスができますか?

DVは、受けている奥様本人の感覚が麻痺してしまうのが怖く、ことの重大さを認識できなくなるので、帰国の準備をするように勧めます。そして、いつでも帰国できるように日本での受け皿を紹介することもあります。皆さん、実家が受け入れてくれなかったり、家をすでに売却したり貸していたりして、帰る家がないという方も多いですから。

また駐在員の妻は仕事を辞めていたりもするので、経済力がなくて不安という方も多いですね。ただ、経済的な面でいえば、マザーズハローワークなど、一人親を支援する制度はかなり整っています。短時間ワークや託児付きで無料でパソコンのセミナーを受けることができたり、また、扶養的財産分与といって収入の高いほうから低い方へ、収入格差を埋めるための支援を夫に求めるという方法もあります。離婚した後の数年間を限度に、夫から経済的支援を受けることで、妻は資格を取って収入を上げたり、キャリアを上げて生活を安定させることが可能です。

ーもし、今、離婚しようかと悩んでいる駐在妻がいたら、何と言葉をかけたいですか?

まずは、相談してみることが大事と言いたいです。親や同じ立場の駐妻たちには言えないけど、普段は会わない少し遠めの友人や専門機関でもいいので、誰かに相談することが大事です。自分一人で考えていると、自分が悪いからだと思い込んだりしてさらにメンタルを病んでしまう方も多いのですが、人に話すだけでも気持ちが変わります。

参考情報:海外駐在員が離婚しやすい2大理由と離婚手続

── 小泉さんは独立して誰もしていないことを始めたわけですが、実際にやってみて、今どんな風に感じていますか?

仕事自体はやりがいもあり、必要とされている実感もあります。ただ、まだまだ不安もあるのが正直なところで、こうありたいという理想に向かって、そこにたどりつくまでの方法論を探し続けています。

私自身の課題として、物事のつなげ方や人脈の広げ方、ネットワークを広げるやり方がよくわかっていないかなと思います。もともと国家公務員で転勤も多い仕事だったので、営業のノウハウなどもないので、今は全てをイチから築いている大変さがあります。

── 公務員時代より大変な気がしますが、ご家族のサポートなどはありますか?

夫婦問題を取り扱っているので、相談を受ける自分はバッチリ夫婦円満で子育てもしっかりしています、と言いたいのですが……(笑)。とても公務員時代のような早い時間に帰宅はできませんし、夫はふつうの会社員で保育園に頻繁にお迎えにいけるわけでもないので、大変なときもあります。

実際、家族には、多大な迷惑をかけていると思います。先日は、子供の保育園の遠足をすっかり忘れていて、出勤している途中でママ友からの連絡で気づいて顔が青ざめました。でも、ちょうど夫が今日は遠足じゃないか!と思い出してくれて、小5になるお姉ちゃんが、15分ぐらいで妹のお弁当を作ってくれたのです。娘は、後日、保育園に帰って、遠足の想い出を粘土で「ねえねの作ったお弁当」として表現していたのにも感動しました。そうやって、知らない間に家族のチームワークができているのだなと実感しました。

本来、全力でやればビジネスが広がるスピードは速く、軌道にのるのも速いと思うのですが、今は家族の時間とのバランスをとるため、やりすぎないようにしています。が、夫はおそらくバランスはとれてないと感じていると思います。難しいですね。やりたいことはいっぱいありますが、自分のやりたいことを全面に出しすぎると、いろんなところに齟齬が出てくる感じがします。「私らしく生きる」を突き詰め過ぎないように、ブレーキをかけてくれる存在が、私にとっては夫かなと思っています。

── やる気あふれる小泉さんですが、離婚テラスのほかにも台湾で新たに始められたことがあるそうですね。

育児講座を始めたところです。もともと、離婚テラスを始める前から、家庭裁判所時代に学んだ発達心理学の知識、たとえば子どもの定型発達や認知、記憶力の発達についてを、他のお母さんたちとも共有したいと趣味の延長のような形で育児講座を開いていました。また、台湾駐在時代の友達が帰国してリトミック教室をやっていて、お互いの教室を行き来するなかで、2人で組んで何か台湾の人と交流したいねとホワンと思っていたところ、私が台湾時代に所属していた育児サークルから声がかかったのです。

私自身は、帯同時代に育児サークルに入ってすごく救われたという想いがありました。初めての子育て、家で娘と2人きりで過ごしていた時、週1回でも他のママと日常会話をすることがとても楽しみだったのです。今回は、リトミックを教えている友人は道具やスペースの関係で参加を見送ることになり、私一人で台湾にいる協力者の方と一緒に、育児講座とリズム体操や絵本の読み聞かせをしてきました。

台湾の方と日本人が一緒に受けられる、中国語と日本語で行った育児講座は反応がよかったですね。台湾人はもともと日本人が好きで日本人と交流したいと思っていたり、外国語に触れさせたいと思っている人が集まりますし、日本人も現地の人と交流したいとか、ママ友が欲しいといった方たちが集まってくれました。

収益は出ないけれど、昔お世話になったところで、恩返しができたらいいなと始めたところです。赤字では継続が厳しいので、どうやって運営していくか考えているところです。日本と台湾は国交がないので、細く長く続けて台湾と日本をつなぐ架け橋になれればと思っています。

── では、小泉さんの、これからの抱負を教えてください。

私の大きな夢は、「すべての離婚を考える夫婦が、まずは私に相談してもらえるようになること」です。悩める夫婦の最初の窓口になりたいのです。まずは最初のフィルターとして私を介してもらって、その結果を受けて、その後の人生にのぞんでいただければ嬉しいなと思います。

【小泉道子(こいずみ・みちこ)さんの経歴紹介】

行政書士。2002年4月、家庭裁判所調査官補として採用されて以降、各地の家庭裁判所にて勤務。その間、第一子目の育児休暇取得中に夫の台湾赴任へ帯同。2年間の帯同生活を経て帰国し、復職。2017年3月、東京家庭裁判所を最後に辞職し、2017年4月に離婚テラス(https://rikon-terrace.com/)を設立し、代表を務める。産業カウンセラーの資格も生かし、夫婦の問題から、親の離婚に直面する子どもたちのサポートも行う。

2018年5月取材