<後編>
後編では、2度の駐在妻生活を振り返り、変化があったといわれる生き方・働き方に対する想いについて伺いました。
アルジェリア生活と再就職活動を振り返って ~揺さぶられた価値観~
―アルジェリアでの生活は、美和子さんのキャリアにとってどのような位置づけになりましたか?
キャリアに向けた特別な活動はしなかったものの、私にとってはかなりプラスになりました。
それこそ、はじめに就いた仕事を退職して特に守るものがなくなったという状況自体が、他の仕事へのチャレンジに繋がったからです。駐在の話がなかったら、同じ会社に居続けて更に守りに入っていたでしょうね。
そして、なによりも、駐在妻になって自分の価値観が揺さぶられたことも大きかったです。
―価値観の揺さぶり……興味深いです。なにがあったのですか?
初めて駐在妻になった時、「駐在妻」には語学力やおもてなし力、素敵なお料理やお菓子が作れることが必要とされていると感じたんです。
それまで生きてきた世界では、自分が努力してきた「勉強」や「仕事」が評価の対象とされていたのに、駐在妻になったら全く評価されなくなったなと。苦手な「語学・料理・おもてなしや気遣いといった女子力」が評価されるような世界に来て、「私って何もできない人間だ」と思い、困惑と辛さを感じました。これは、自分の立ち位置や価値観を大きく揺さぶられるような経験でした。
でも、その時に、自分の価値がゼロになったと感じたからこそ、変なプライドを持たずに、ゼロからのスタートが切れたのでしょうね。「次は、まわりの評価や収入とかではなく、やりたいことや興味あることをやろう」って。
―「生きる世界が変わる」というのは、確かに価値観を見直すきっかけになりますよね。再就職活動も含めて、働き方だけでなく、生き方にも変化があったそうですね。
キャリアの中断や再就職を経験して、「人と比べすぎない」ことがとても大事だと感じました。
20代、30代といろいろ焦ってきましたが、いま40歳を超えて、以前よりも意識が自分自身に向くようになり、「いまの自分の状態を受け入れる」ことができるようになった気がします。
私は「これがしたい」という強い意志があったり、自ら環境をつかみ取りにいくタイプではありません。そのかわり、「予期せず目の前に転がってきた環境や、運や巡り合わせを大事にして、それを最大限楽しむ、一生懸命やる」ということを心がけています。「それが自分っぽさだな」と気付いてから、人は人、自分は自分と、割り切れるようになりました。
世の中にはいろいろなストーリーがありますが、それはどれも他の誰かのもの。
人と比べすぎず焦りすぎず、今を楽しく幸せに過ごしていくことが大事だと思っています。
チリ生活をしている今思うこと ~ブランクは割り切って、そこから再スタートすればいい~
―チリでの生活を聞かせてください。1度目とは、やはり異なりますか?
今住んでいる街に日本人駐在妻がいないこともあり、アルジェリアの時のように常に人と一緒に何かをするような生活はしていません。その分、本を読んだり語学の勉強をしたり、ゆっくり過ごしています。
チリに来てから、駐在ファミリーカフェの運営メンバーをしたり、世界ウーマンというサイトでコラムを書くようになりました。将来のキャリアを意識した活動というわけではありませんが、同じ目的をもった仲間と交流したり、海外生活の思い出のひとつになるよう楽しんでいます。
前回感じた価値観を揺さぶられるようなことはありません。2度目のためか、すでに似たような経験をしていると、根底から覆されるような衝撃はないのかなと思いますし、自分が「人と比べなくなったから」というのもあるかもしれませんね。
―”キャリア迷子”に対する焦りがなくなったようにみえます。次の再就職活動に不安はありませんか?
自分の年齢や急激な環境変化に不安がないわけではありません。コロナ禍での働き方の変化を身をもって経験していないことや、ITスキルや英語力が求められる状況についていけるかといった不安はあります。
でも、5年も仕事から離れていれば、働き続けてきた人と差がつくのは当然。40代半ばは管理職に相当する年代のようですが、自分の経験年数や実力が追いついていないのも仕方のないことです。
ブランクはブランクと割り切って、そこからまた再スタートすれば良い。
私は、やるからには責任と成果のある仕事をしたいと思っているので、謙虚であること、求められること+αを常に積み重ねて、自分なりのステップを進んでいきたいと思っています。
―「やりたいことが見つからない」という方や、再就職や将来のキャリアに不安を抱える仲間たちへメッセージをお願いします!
やりたいことや進みたい方向が明確だったり、海外生活中もコツコツと準備をしてキャリアアップしていく人を、純粋に「すごいな」と心から尊敬します。
でも、私のように、そういうものが見つからなかった人もたくさんいるでしょう。それでもよいと思います。
私は、「やりたいこと」を無理に見つけなくてよいと考えています。今までも、何かをするうちに「もっとこうできたらいいなと感じたもの」が、そのうち自分の「やりたいこと」になりました。なので、今も焦らず、自分の興味が湧いたものをひとつずつ取り組めればよいと思っています。
海外生活だからといって「何かしなくちゃ、頑張らなくちゃ、努力しなくちゃ」と、無理に何かを探そうとして、焦ったり辛くなったりしているならば、それはもったいないです。
努力することは大事。でも、立ち止まったりゆっくりする時間もあっていい。
「海外に住む」というのはとても貴重な経験です。今しかできないことを十分に楽しみながら、しなやかに、毎日を笑顔で過ごしてほしいと思います。
◆関連サイト◆
宇佐美 美和子(チリ) | 世界ウーマン | 世界で働く女性のためのポータルサイト (sekaiwoman.com)
◆編集後記◆
インタビューをお願いした当初から、「私は、海外生活中にキャリアのために何かを頑張ったわけではないし、それを就職活動で活かそうと思ったこともない。そんな私の話でも、自分のキャリアに自信がなかったり、ブランク明けの就職に漠然と不安を感じる方の参考になるならば」と、少し控えめに、でも熱く語ってくださった美和子さん。
確かに、みんながみんな「駐在妻生活を自身のキャリアに活かそう」と頑張ることができているわけではないと、妙に納得したことを覚えています。
それでも、話を伺ううちに、仕事や海外生活の一つひとつの経験が、バラバラに見えて、実はしっかりと線で繋がっていて、それが美和子さんの「生き方、働き方」を築いていっているのだと感じるようになりました。
これといったビジョンがなくても、目の前に来たものにその都度向き合っていく。降って湧いてくる変化やチャンスを、前向きに楽しむ。そういう美和子さんの生き方からは、強さと潔さを感じました。ありがとうございました!
<後編終わり>