駐夫になって直面した「男の甲斐性」というしがらみ ~昭和生まれの政治記者が駐夫になった場合~

海外生活中(キャリア体験談)

駐妻caféに「駐夫」さんが初登場!

女性のキャリアが多様化する中、妻の海外赴任に伴い海外で生活する「駐夫(ちゅうおっと)」と呼ばれる男性が少しずつ増えています。まだまだ駐在妻に比べてマイノリティな存在ですが、まさに新しい夫婦・家族のあり方を自ら開拓しているパイオニアの方たちと言えるでしょう。

今回インタビューしたのは、大手メディア政治部記者の仕事を休職し、現在「駐夫」としてご家族とニューヨークに滞在している小西一禎さん。ご自身の経験をブログ日経DUALプレジデントウーマンなど様々なメディアで発信し、駐夫のコミュニティ作りなど積極的な活動をされています。

小西さんはどのような思いで同行を決意し、そしてどのような思いを抱えながら駐夫としての日々を過ごしているのでしょうか?インタビューでは、同行に至るまでの経緯、男性ならではの苦悩などをたっぷりと語っていただきました!

※この記事は2019年11月26日に開催したオンラインカフェの内容を元に編集したものです。

同行する決意を後押しした、シンプルな家族への思いと休職制度

-まずは駐夫になるまでの経緯を教えてください。

大学卒業後から、日本の大手メディアで政治記者として勤務していました。約2年前に妻の海外赴任に伴い会社を休職し、妻と子ども2人(現在7歳と5歳)の家族4人でニューヨーク生活を送っています。

元々、私自身がワシントンDCへの赴任をずっと希望しており、妻も同行するのを楽しみにしていたのですが、実現が難しい運びになりました。すると製薬会社に勤める妻が「じゃあ私が赴任して、あなたをアメリカに連れていく」と頼もしいことを言ってくれて、彼女自身がアメリカ赴任を目標とするようになりました。

それから何度か妻から「本当に付いてきてくれるの?」「会社に休職制度があるんだよね?」などと聞かれることはありましたが、正直なところ実現するとは思っていませんでした。可能性がある話として、妻からアメリカ赴任を打ち明けられたのが今から3年ほど前で、その頃から真剣に同行を考えるようになりました。

自分が妻をアメリカに連れていけなかったという思いと、妻のキャリアをサポートしたいという思い、またそれまでの共働き生活で、多忙により子どもの保育園の送り迎えなどはほとんど妻任せだったことに対する負い目など、様々な思いが複合的に絡んで同行を決意しました。でも振り返って考えると、「家族は一緒にいた方がよい」というシンプルな気持ち、そしてそれを支える休職制度が会社にあったことが同行を決める大きな要因だったと思います。

渡航先がニューヨークというのも大きかったですね。例えばアジアなら(どちらかが単身赴任となった場合でも)地理的に行き来がしやすいかもしれませんが、アメリカ東海岸ではそうはいきません。また、個人的にニューヨークは大学3年生のときに「はじめて訪れた海外」です。その後も何度も訪れ、ずっと大好きな思い入れのある街でしたし、渡米時に知り合いがいたので、心強さもありました。

-もしも休職制度がなかったらどうされていたと思いますか?

日本政治の最前線で働いていた当時の自分を思い返すと、休職制度がなかったら難しかったかもしれません。「家族は一緒にいるべきだ」という思いはあっても、「45歳(渡米時)で職を失って、まったく新しい主夫としての道を海外で始める」というチャレンジはあり得なかったのではないかと思います。

ただ、実際に単身で日本に残っていたとしても、父親として、夫として耐え切れなくなって、途中で渡米したかもしれませんけどね。

-休職制度の採用が広がってきたとはいえ、取得する男性はごく一部で、実態としては女性が休職、もしくは退職して同行するケースがほとんどです。

残念ながら、日本では内側からこういった変化を起こしていくのはなかなか難しいのが実態だと思います。例えば国の施策といったトップダウンの力が働く方が、物事が進みやすいかもしれません。

始まった駐夫生活…子どもたちと終始向き合う生活に愕然!

-渡米されてからの生活はどうでしたか?

最初はとんでもなく大変でした。渡米時のニューヨークはまれに見る大寒波に襲われていて、マイナス10度を下回る気温の中で、車を買ったり、子どもの学校手続きをしたり、銀行口座の開設をしたりなど、生活基盤を整えるだけでもとても大変でした。日本と同じように物事が進まないことにイライラし、自分の選択を恨んだこともありましたし、その矛先が妻に向かって険悪な雰囲気になることもありました。

最初の3週間は子どもたちの学校も始まっておらず、自分自身が不安を抱えて気持ちが落ち着かない中で、子どもたちが終始付きまとってくることにイライラが募ることもありました。その後、生活の基盤が落ち着くにつれて、徐々にポジティブになっていけたと思います。

-いつも子どもと向き合っていると、自分が大変な時につい子どもにあたってしまうという悩みはよく聞きます。小西さんはそういう時はどうされていますか?

そういう思いはとても共感できます。私も妻が出張でワンオペ育児をしている間に、子どもたちがそれぞれ勝手なことを言ってきた時は、イライラが頂点に達して怒鳴り散らしていました。

そんな時は、日本で産業カウンセラーとキャリアコンサルタントという資格を取得した際に学んだ「傾聴」を実践してみたところ、うまくいきました。まずは自分の心を落ち着かせ、子どもたち一人ひとりに向き合って話を聞いてみると、子どもたちも落ち着いてきます。

とはいえ、常に傾聴が出来るわけではなく、怒鳴ってしまうこともあります。そして、その後に激しい自己嫌悪にさいなまれます。それを繰り返した学習効果により、怒鳴ることは減ってきていると思いたいですね。「怒ることと叱ることは違う」ということは、しっかりと意識するようにしています。

-家事の分担はどうなっているのでしょうか?日本にいる時と比べて家事負担はどう変化しましたか?

家事の分担についてはよく聞かれます。実は妻と話し合ったことはないのですが、基本的に家事は自分が担いつつ、部分的に妻と分担しています。妻は出社が早いので、子どもの弁当作りは任せています。あとは夜の寝かしつけですね。一日のスタートとエンディングはお願いし、それ以外の家事は私が担っています。

東京での共働き時代に私がしていた家事は、平日のごみ捨て、夜中の皿洗い、自分の衣服の洗濯などでした。土日は気が向いた時に夕飯を作ったり、公園に子どもたちを連れて行ったりしていました。でも、食事作りは気が向いた時にやるのと、毎日やらなきゃいけないのではまったく違います。昼ご飯は自分だけなので適当に済ませますが、夕飯はそうはいきません。特に献立を考えて作るのが本当に大変で、最初はとても時間がかかっていました。

献立は野菜を中心に決めるようにしています。まず使う野菜を決め、それからレシピサイトでその野菜で検索して献立を決めます。まだまだ短時間でさっと作れるようにはなっていませんが、外食の際には「これがこの値段じゃ絶対に頼まないな」というような感覚を持てるようになりました。ここまで支えてくれたのは子どもたちです。「パパのごはん、美味しいね」と食べてくれたことが、希望を与えてくれました。

日本男児を苦しめている「男の甲斐性」という概念

-日本では未だ家事は女性が中心的に担っているのが現実ですが、駐夫を経験してみて家族のあり方についてどう思いますか?

このままでいいはずはないですよね。まさにその辺りについて、私の考えを言語化して記事を書いています。「もっと男が家事をやろうぜ」と、同じ男性として呼びかけたい。辛いことはあるけれど、家事も育児も一つのスキルで、人生を助けることにもなる。身に付けておいて損はないです。

日本男児を苦しめているのは「男の甲斐性」といった潜在的な固定概念だと思います。私自身が昭和生まれで、長時間労働が当たり前とされる職場に勤めていたこともあり、そういった古い考えを捨てきれず、今でもことあるごとに邪魔してくるのを感じます。

日本で共働きをしていた頃は、正直なところ、収入で夫婦間のパワーバランスを保っていた部分がありました。それが、こちらに来て私は収入がゼロになり、見方によっては「妻に支えてもらっている」「生活させてもらっている」という風になりました。最初のころは、卑屈になりがちなところもありました。その辺りについて妻に正直に聞いたこともあるのですが、「あなたはあなたでいい」「(今稼ぎがないからといって)私が養っていると思ったことはないし、この先も思うことはない」と言われました。

リストラされたサラリーマンが家族に言えず、スーツを来て公園に行くといったエピソードがありますよね。「男の甲斐性」や「プライド」みたいなもので、自分を顧みても、日本男児には自分で自分の首を絞めている部分がある気がします。ただ、そういった意識も平成世代はだいぶ変わってきていると感じますね。

-駐在妻も自分の収入がなくなることで夫に対し引け目を感じるという話をよく聞きます。妻の場合は、それまでは対等だと思っていた関係が変わってしまったという気持ちのようです。

働いていた女性ほどさいなまれるのかもしれません。腹を割って夫婦で話してみた方が良いと思います。お金(収入)と気持ちはリンクしています。楽しいはずの海外生活が辛いものになりかねないですから。

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たのきん

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新卒で銀行に入社後、出産・夫の海外赴任を機に退職。国内外問わず転勤の多い夫に伴い引っ越しを繰り返し、現在は2度目の駐妻生活をアフリカで送っている。ライフステ...

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