【調査結果】『駐在妻の再就職アンケート』から見えた再就職の現状とキャリア形成に向けたヒント

駐在妻の再就職アンケート結果を踏まえた提言

「駐在妻の再就職アンケート」プロジェクトリーダー
田中 里枝

駐在妻が再就職にあたって直面する構造的課題

今回のアンケートが示すデータは、自分自身や周りの駐在妻の方々の実体験を通じて感じていたものとほぼ同じ結果となりました。

女性の社会進出に伴い、駐在同行前までフルタイム正社員として安定した雇用形態でキャリアを積み、本帰国後の就労意欲も高い駐在妻が増えています。

しかし駐在同行によりキャリア形成において重要な時期にブランクが生じることで、年齢に対し経験値が低いとみなされ、帰国後の再就職市場では大きなハンデを負うことになります。

また帰国時に乳幼児を抱えている場合、一般的に求職者が託児所を確保することは非常に難しく、就労意欲があっても、就職活動を始めることすら困難な状況におかれます。

海外生活中に専業主婦となったことから家事負担が重くなっている傾向にあり、育児・家庭との両立といった観点から「働き方の柔軟性」を重視した仕事探しとならざるを得ません。

配偶者の人事異動が不透明なため今後の見通しが立てづらく、長期的な仕事へのコミットメントがしにくいという心理的なハードルもあります。

結果として、パート・アルバイトといった非正規雇用で小さな一歩を踏み出す方がとても多いのです。

もちろん仕事に対する価値観はひとそれぞれであり、フルタイム正社員として雇用されることが全てのゴールではありません。

ただし帰国後の元駐在妻が、構造的に社会復帰が難しい状況に置かれ、その後に望んだキャリアを形成しにくくなることは、多くの場合は事実でしょう。

経験値も就労意欲も高い元駐在妻が、駐在同行に伴い強制的にブランクが発生することで、労働市場から正当に評価されなくなってしまうのは、本人にとっても、社会にとっても損失があまりに大きい気がしてなりません。

駐在妻への提言:中長期的なキャリアビジョンと戦略を

駐在妻が自分の望むキャリアを形成していくためには、駐在妻側が心掛けていくべき部分と、企業側が変わっていくべき部分があると感じます。

駐在妻側は、一般的な再就職市場ではハンデを負ってしまうという現状を認識した上で、ブランクを抱えながらも評価される人材となるために何をしていくべきか、戦略的に考え、自ら行動を起こしていくことが求められるでしょう。

そのためにはまず、自分がこの先の人生をどう歩んでいきたいのか、どういったキャリアパスを望むのか、じっくりと自己理解を深めて、中長期的なキャリアビジョンを持つことが大事なステップになると思います。

目指す方向性が明確になったら、そこに繋がる経験やスキルを、どんな形であれ積んでいくことが重要です(有償・無償問わず)。

ポジションに関連する経験は再就職において重視され、評価に繋がります。今はインターネットを通じて海外にいてもできることはたくさんあるので、ぜひアンテナを高く張って、何事にもチャレンジしてみてください。

また再就職活動をするにあたっては、これまでの待遇や働き方にこだわらない姿勢も求められてくるでしょう。

雇用形態や企業規模にとらわれず、自分のキャリアビジョンに向かってまずはファーストステップを踏むことが重要です。

新型コロナウイルスの影響で働き方はかなり変化してきており、柔軟な働き方を求める駐在妻にとってはチャンスが広がっています。最近は業務委託など、新しい形の働き方も増えてきています。

最初から理想のゴールを目指す必要はありません。少しずつ経験を積みながら、ステップアップしていくことも十分可能です。焦らずにその時の自分に合った働き方を選んでください。

社会・企業への提言:多様な採用基準と勤務形態の整備を

企業側には、ライフイベントの変化でキャリアの中断を受け入れざるを得なかった女性に対して、「年齢=キャリア年数」といった一律的な評価軸ではなく、より柔軟な採用基準で評価することを期待します。

再就職後、多少のブランクを跳ね返し活躍する女性をたくさん見てきました。もともとのスキルや経験値が高く、チャンスを手に入れさえすれば、即戦力に近い働き方ができる駐在妻はたくさんいます。

必ずしも年齢に即したポジションでなくとも、それまでのキャリア、スキル、そして熱意やポテンシャルといったさまざまな面を踏まえて、ぜひ幅広くチャンスを与えていただきたいです。

今回のアンケートで、好待遇で再就職された方の就職先の多くは外資系企業だったことが分かりました。

ブランクや年齢といったバイアスで判断せず、個人の経験とポテンシャルで判断し、正当な待遇で受け入れる土壌は日系企業より外資系企業の方があることは間違いないでしょう。

画一的な基準で採用を続ける企業と、多様な人材を柔軟に受け入れる企業とでは、組織の活力・成長力に大きな違いが出てくる気がしてなりません。

企業の中長期的な経営戦略の一つとして、ブランクはあってもポテンシャルの高い人材を柔軟に受け入れる体制作りを推進していただきたいです。

働き方の柔軟性を充分に高めることも重要です。家事・育児の負担が依然として重くのしかかる女性にとって、毎日固定された時間にオフィス出勤することが難しい場面は多々生じます。ただし働けない訳ではなく、勤務する場所や時間を柔軟に選ぶ(決める)ことができれば仕事をすることは十分に可能です。

在宅ワークやフレックスタイム制など、柔軟な勤務形態の維持・拡大を進めていくことが求められます。結果的に、それが企業にとって生産性向上や優秀な人材確保に繋がることでしょう。

また駐在員を派遣する側の企業に対しては、海外駐在員をよりジョブ型に近い形で派遣することを求めます。

具体的には、勤務地、駐在期間、職務内容といったジョブディスクリプション(職務記述書)を予め明確に提示し、双方が同意の上で派遣する形です。

国を跨いでいつどこで生活することになるか分からない状態が続くのは、駐在員はもちろん、同行する家族にとっても大きな負担となります。

勤務地や駐在期間といった勤務条件が予め明確に分かっているのであれば、同行する家族側も生活の見通しが立てやすく、現地での過ごし方や帰国後のキャリアに向けた動きも変わってくるはずです。

企業にとっては難しい側面もあると思いますが、海外赴任が駐在員およびその家族の人生に及ぼす影響の大きさを鑑みても、ジョブ型海外赴任の導入を進めていくことが重要ではないでしょうか。

全ての人にとって開かれた労働市場の形成に向けて

「駐在妻の再就職と、専業主婦の再就職とどう違うのか?」といった問いを何度か投げかけられたことがあります。

確かに再就職する上での難しさは両者において共通点が多く、また企業側の見方もほとんど変わらないといった実態はあるでしょう。

ただし大きな違いの一つは、多くの駐在妻は配偶者の人事異動という自分では全くコントロールできない要因によってキャリアが中断され、海外でビザや税金といった観点から「働くことが許されない」状況に置かれてしまうという点です。

女性の中でも、より働く権利に対して弱い立場に置かれているのが駐在妻と言えるでしょう。

だからこそ、駐在妻がブランクを経ても、自分らしくキャリアを再構築していけるようになれば、その他さまざまな理由でキャリアの中断を余儀なくされた方々にとっても、広く開かれた労働市場の形成に繋がっていくのではないでしょうか。

このアンケート結果が、駐在妻を含め、ライフイベントの変化でキャリアの中断を余儀なくされた全ての方にとってキャリア再構築に向けたヒントとなること、そして企業・社会側の意識の変化に繋がるきっかけとなることを願っています。

本アンケート実施にあたり、ご協力いただいた皆さまに厚く御礼申し上げます。どうもありがとうございました。

【寄稿者プロフィール】

駐在ファミリーカフェ運営メンバー。新卒で銀行に入社し法人アドバイザリー業務等に従事した後、夫の海外赴任に伴い退職。2度の駐在帯同および再就職を経て、現在はシンクタンクに勤務。自身の体験から駐在妻が直面するキャリア課題に疑問を持ち、今回のアンケート企画・運営の指揮を執った。


※本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、駐在ファミリーカフェおよびグローバルライフデザインの見解ではありません。本アンケート企画に関する一般的なお問合せは、下記までご連絡ください。

お問合わせフォーム

アンケート全回答データは、以下のリンクよりダウンロードできます。駐在妻の先輩の皆さんからの熱いメッセージを多数いただいています。ぜひご覧ください。

「駐在妻の再就職アンケート」全回答データおよび提言

※本リリースの調査結果・グラフをご利用いただく際は、必ず【駐在ファミリーカフェ調べ】とご明記ください。

▼過去のアンケート調査結果もぜひご覧ください。

「海外駐在員と帯同家族向けサポートについて」

「海外での乳幼児の子育てについて」

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