300人の”駐妻”に向き合うなかで見つけてきた『駐妻である私が、駐妻のためにやりたかったこと』

心の声を聴くことの大切さを知る

ーー2020年1月に一時帰国して第2子を出産されましたが、その直後に新型コロナウイルスが拡がって広州に戻れなくなったんですよね。2022年2月に広州に戻るまでの2年3か月、日本ではどのように過ごされたのですか?

出産のために実家に一時帰国したのですが、まさかの事態になってしまったので、しばらく実家で過ごしました。でも、この実家での生活が、私にとってはどうにも苦痛で…。2020年6月、産後5か月の頃ですね、「私、このままじゃ産後うつになる」と感じて、実家を出て近くのホテルに移りました。

ーーそれは大変でしたね……。ホテルにはしばらく滞在したのですか。

3週間滞在しました。当時のことをあまり思い出せないのですが、その時はもう子どものことで頭がいっぱいでしたね。加えて、そんな自分に対しても「私はなんのために生きているんだろう」って感じたりもしてました。心身が疲れ切っていたのだと思います。

ーーその後はどうされたんですか?

自分で少し回復してきたのを感じられたので、一旦実家に戻りました。そこから1年くらい実家でなんとか生活していたのですが、やっぱり辛くて……。広州に戻れる気配も全然なかったので、2021年の夏に思い切って実家を出て、アパート暮らしをはじめました。

(※当時、コロナ禍の中国では駐在員の家族に対しても入国制限が設けられ、日本に一時帰国していた多くの駐在員家族が中国に戻れずに長期の一時帰国を余儀なくされていました。)

ーーかなり長い時間落ち着かない生活を送られていたのですね(涙)そんな中で、自分で「生活環境を変えた方がよい」と気付けたのは、大きかったのではないでしょうか。

そうですね。私の場合、前職でのメンタルヘルスの知識があったので、自分の心身の状態に気付けたり、整理できたというのはあったかもしれません。振り返ると、「私もう無理かも」と自分で気付けたから、環境を変えたりなんらかの対処ができたのだと思います

実は、私が当時ブログに書いた『身体からのSOS』という記事に、とても多くの反響があったんです。それを見て、自分の心身の不調に気付いたり、心の声を聞くのって難しいことなんだなと改めて感じました。

ーー過去の経験が救いになったのですね。

あと、私の場合は、前職で知り合ったカウンセラーに相談することができたのも大きかったと思います。人生に浮き沈みはどうしてもあるので、なにかあった時に話を聞いてもらえる、相談できる存在がいることは心の支えになります。この一連の経験は、「私もそういう存在になりたい」と思うきっかけにもなりました。

家族4人で足ヨガをしている様子
家族一緒にヨガをすることもよいリフレッシュに

大きな転機は「あるべき論」からの解放

ーーアパート生活になって落ち着いてから、またいろいろとはじめたそうですね。

実は、アパート生活は夫が久しぶりに一時帰国したタイミングに合わせて始めたのですが、その頃、もう一つ転機となる出来事がありました。

『リパーパスプログラム※』という、自分の内側から出てくるものを見つめるという宿泊型のプログラムに参加したんです。4泊5日で開催地の熊本に1人で行きました。偶然見つけたのですが、私が「なんとなくやりたい」と思っていたことが凝縮されたプログラムだったので、夫に子どものお世話を頼んで思い切って行ってきました。

リパーパスプログラム5日間 in 地獄温泉 | Project MINT

ーー興味深いです。どんなことをしたのですか?

いろんなことをしましたね。自分の過去を振り返ったり、レゴブロックを使って自分がどんなふうになりたいのかを考えたり、カードを使って非暴力コミュニケーションを学んだり。東京から来た料理人が現地の食材を使って料理してくれたり。もうメチャクチャ良かったです!

レゴブロックを使ったワークショップ

ーー充実した時間を過ごされたのですね!なにか大きな変化があったのですか?

もちろん学んだことはたくさんありましたが、それまで実家でずっと子育てだけしていた反動なのか、「いろんなことから解放された」というのが率直な感想です。特に、子どものことが気がかりだったのですが、後から聞くと両親や夫と楽しく過ごせていたようで、「私じゃなきゃいけない、なんてことはない」と気付けたことも大きかったです。

実は、私自身が「母なんだから子どもと一緒にいなきゃいけない」とずっと思い込んでいました。「子どもがいるのに宿泊なんてしちゃいけない」って。でも、夫に相談したら快く送り出してくれたし、私自身が「母だって、こんなふうに自分のための時間を取っていいんだ」と心から思えたのが大きな変化でした。「私にはできない」というのは、実は、自分で自分に制限をかけてしまっているだけなのかも、って。

私は、これまでの活動で、やりたいことができずにストレスを抱えたり、何かしたいけど何をしたら良いのかわからないという駐妻をたくさん見てきました。そういう方に、自分の中の「あるべき論」から解放され「自分が本当にやりたいことをやろう」と思ってもらいたい。そういう人たちに寄り添って、背中を押せる活動をしていきたいと改めて思いました。

久しぶりの再会を喜ぶ夫と子どもたち
久しぶりの再会を喜ぶ夫と子どもたち

ーーそれは、いまの活動に繋がる原動力のようですね。Clubhouse『駐妻ライフ』の配信をはじめたのもこの頃ですね。

このプログラムの後ですね。Clubhouseはちょうど一時帰国している時期に流行ったのですが、直感的に「これは駐妻と相性が良い」と思ったんです。

というのも、私はオンラインでヨガをやっている頃からずっと「駐妻って本音を話せる場所が少ない」と感じていたんです。話したい人はたくさんいるのに、なかなか自分からは話せない。Clubhouseは、ブログや他のSNSと違って『声』で人となりを感じられるのが魅力なので、本音を話したい、聞きたい駐妻に合うんじゃないかって。

ゲストには、大きく目立った活動している方よりも、内に秘めたものがあるとか、海外での生活をどう感じてどう生きてきたかをリアルな声で語ってくれる方に出演いただいています。『駐妻ライフ』を、「等身大な自分を語れる場」とか「駐妻生活の中で抱えているものを気軽にはきだせる場」にしたいと思ってはじめました。

PCR検査を受ける子ども2人
コロナ禍の広州はしばらく落ち着かない日々が続きました

目指したいのは、駐妻が「どこにいても本来の自分で生きていけるようになる」こと

ーーここまでお聞きしただけでも、とても精力的に活動されてきたことがわかります。しかも続けることが簡単ではないものばかり。なにか強い思いがあるのでしょうか?

そうですね、意外かもしれませんが、活動の原点はどれも「私自身が欲しかったから」、それを続けられたのは「私自身も楽しいから」でしょうか。

私、コツコツ続けるのはわりと得意なんですね(笑)。たとえ報酬はなくても、「ありがとう」という言葉をいただけたり、信頼や実績に繋がるのが嬉しいのだと思います。

そして、そういう私の活動を通じて、駐妻たちがネガティブな部分だけじゃなくてポジティブな部分を知って、幸せを感じられる人が増えて、まわりまわって世界が良くなれば良いな、と思っています。

ーーこれまでの活動が、いま主催されている『Expat Journey』に繋がっていますね。

そうですね。私は駐在同行によってできた時間は”チャンス”だと思っているので、その時間を家族だけじゃなく自分のためにも使ってほしい。そのためには、自分はどんなことができるのか、いまの生活にどんな意味づけができるか、そういったマインドの部分にもアプローチしながら、一緒に駐妻ライフを走っていける活動をしたいと考えました。

それで作ったのが『Expat Journey』。マインドフルネスやヨガで心身を整え、仲間と一緒に駐在同行期間の方向性を決める体感型オンラインプログラムです。今まで出会ってきた方々の声や、自分自身が乗り越えてきた経験を活かして、「自分が心からやりたいことに一歩踏み出せる、どこにいても本来の自分で生きていけるようになる」そういう人を増やしたい、そんな思いでお届けしています。

主催するExpat Journeyの様子

ーー素敵ですね!最後に、これから海外生活をはじめる方や今まさに頑張っている方へメッセージをお願いします。

日本での当たり前が当たり前ではない海外での家事・育児。だからこそ、頑張っている自分を過小評価せず、褒めて、認めてあげませんか。

特に、葛藤を抱えながら自分の過去に後悔し続けたり、帰国後のことを不安に感じ過ぎず、今、この駐在同行期間という貴重な瞬間、肩の力を抜いて楽しみたいですね。

何をするにも、ご自身の心身の健康が土台です。

自分のための時間や人とのつながりを大切に、心地よく、満たされる日々を過ごしていきましょう!

ーーありがとうございました!

Arinaさんのご紹介

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